キッチン 吉本ばなな
こんばんは。海です。
過去最大と称された台風14号の渦中、皆さんのご無事を祈りつつ綴っております。
今回は、本日読了しました
吉本ばななさんのベストセラー「キッチン」
についての感想を。
彼女の作品はいくらか読んだことがあるのですが
絶対に読みたい本だったのに読むことがなく、先日からふと思い立ったように
読み始めました。
もっと早くに読みたかった。
なんだろう。短編集・あくまでフィクションだとわかっていても、
どこか妙にリアルで実体験なのでは?と錯覚するくらい
身近に感じざるを得ない、でも遥かにかけ離れた遠い、
そんな不思議な一冊でした。
3編から成る本作。どれも大切な人の死を中心に展開され、
海底に沈んでいくような息苦しさ、悲しみ、絶望と
淡々と過ぎていく鉛のような時間、生活が描かれている。
残された者として、その傷に向き合おうと、お互いにお互いが生を
受け入れていく、前に進んでいく、そんな作品。
私自身、家族・友人など身近な死を一度も経験したことがない。
でも、たしかにこの本は「死」がほんの数センチ、隣にある、
人生で「死」を身近に感じた時間でした。
もし、自分の家族・友人、大切な人が亡くなったら…
そんなことを考えながら読み進めると、随所の何気ない描写も
胸が苦しくなりました。
みかげが引っ越しの為、バスに乗り田辺家へと行く描写がなんだかとても印象的で
心に残っています。
-子供が祖母の言うことを聞かないのに対して
普段は泰然とした様子のみかげも苛立ちを募らせる。
そのあと子供と母のやり取りに、温かい家族の風景に出会う。
いいなあと羨ましく思う一方、自分はもうその温かさを感じることは
できないのだとバスを途中で降り涙がぽろぽろと溢れる。
そんな中、食器の音や賑やかな人の声が聞こえ、そこが「厨房」だとわかると
急に明るい気持ちになり、元気に歩き出す-
といった風な描写がある。この部分に、生きる者の死に対する戸惑いと儚さ、
そして人の強さが凝縮されているようで、寂しいのにどこか幸せで心が薄ら温かい。
喜怒哀楽に近い全方位の感情があり、
読み終わってとても不思議な気持ちになりました。
吉本ばななさんの文章は、「美しい」という言葉がすごく似合うと思う。
細かい情景描写がとにかく綺麗。
それと一つ気になった点を挙げさせてください。
夜の庭木がみどり色のライトで照らされ、余計にくっきりと不自然なほどに
浮かび上がるみどりの様を、ディズニーランドのジャングルクルーズに喩え、
みかげは「うそのみどり色だ…」と思う。
何気ない一文だが、「うそのみどり色だ」と思う感性は、おそらく
吉本ばなな本人がジャングルクルーズを過去に見て、感じたものであり
それをあたかも作中の主人公みかげが感じたかのように描かれている。
私が今まで気づかなかっただけかもしれませんが、そういう何気ない
登場人物の感情の中に、作者本人の気持ちが見え隠れする瞬間を初めて
感じたのでここに書き留めておくとともに、これが吉本ばななさんの
表現が美しいと言われる所以の一つのように感じました。
80年代に刊行されたのに古くさくなく、且つ「死」という大きなテーマで
書かれているが、大袈裟に感じない。
これからも何回も何回も読みたい、と思う一冊でした。
この先身近な人の死を経験したとき、きっと手に取っていると思う。
30代過ぎて読むともっと深く理解できるような気がする。
いやあやたら真面目に長々と書いちゃいました。
飽きずに読んでくださりありがとうございます(笑)
もっとユニークに書きたいものです。
それでは、また!